KNOWLEDGE 尺八について

尺八について

このサイトを訪れたあなたは、もう尺八についてはよくご存知かもしれませんが、あまり馴染みのない方に簡単にご紹介させていただきます。

 

尺八というと、ほとんどの人は時代劇などに出てくる虚無僧を思い浮かべるかもしれません。または、お箏や三味線と尺八が合奏する「三曲」と呼ばれるスタイルや、演歌や民謡の伴奏、日本の時代劇で効果音に使われる楽器というようなイメージを持っているかもしれません。日本に古くから伝わる楽曲は今でも演奏され愛好家も多くいます。尺八固有の音色を追求した趣のある深みのある曲やお箏や三味線との絶妙な掛け合いは人々を魅了します。

一方で、最近では尺八の固定概念にとらわれず、様々なジャンル、スタイルの楽曲を創り出し、パフォーマンスをする尺八アーティストたちが数多く活躍しています。

SHAKUHACHI HACKサイトの”SOUND SOURCE“では、古典楽曲に加え、日本のみならずグローバルに活躍する様々なアーティストが提供する尺八楽曲を知ることができます。ぜひ一度チェックしてみてください。おそらく、尺八の概念やイメージが変わるはずです。

Free-Photos / Pixabay

尺八のつくり

尺八は真竹と呼ばれる日本に自生する竹の根本の部分を利用してつくられます。切り出した竹を油抜きをし10年近く乾燥させてようやく竹材が出来上がり、本格的な尺八づくりが始まります。

竹材の形を整えて節を抜き、長さを調整して成形していきます。吹き口となる筒端は斜めにカットし、指孔は基本的には表側に4つ、裏側に1つ、合計5つ開いています。最近では、合計6つ、7つの指孔を開けて利用するアーティストもいます。一般的な尺八は、真ん中で2つに分割できるようになっています。これは作りやすいという利点がありますが、持ち運びにも便利です。

尺八の内部は、音程を調整するために「地(ぢ)」と呼ばれるパテで成形し、最後に漆で仕上げたものが一般的で、演奏には主にこのタイプが使われます。地をあえて用いず、天然の竹の内部表面をそのまま残したものは「地無し尺八」と呼ばれ、独特の音色を楽しみます。一見、シンプルな構造ですが、実際には竹材のほか歌口、内径、指孔などのサイズや作り方などで音色が大きく左右され楽器としての性能も大きく異なります。

尺八の基本的な長さは1尺8寸(約54cm)で、これが「尺八」という名前の由来になっています。もちろん長さの違う尺八があり、全長が短いほど高い音が出て長いほど低い音が出ます。一般的には、1尺6寸から2尺3寸までの長さの尺八が演奏によく使われます。筒音(つつね:指孔を全部閉じて普通に吹いた音)の音程は1尺6寸がE、1尺8寸がD、2尺1寸がB、2尺3寸はAの音が出ます。おおよそ1寸長さが長くなるごとに半音低い音が出ます。最低音から最高音までは、だいたい2オクターブ半くらいの音域をカバーします。

 

音色と奏法

尺八はエアリード楽器の中でも、特に落ち着いた渋みと深みがあり、または音色は艶やかで伸びがあり、ときには疾走感、ドライブ感を出せることが特徴で、演奏するアーティストの個性をあますことなく表現できる楽器と言えます。尺八の構造的な特徴(太さ、長さや歌口の形状、シンプルな構造)や縦に吹く楽器であることがこれら音色の特徴を生み出していると考えられます。その他、尺八ならではの独特な吹き方が音色に大きく影響しますのでいろいろとみていきましょう。

まず、尺八の音を鳴らすには、鋭く薄くなった「歌口」に息を吹きかけて音を鳴らします。音の出し方による楽器分類としては「エアリード楽器」に分類され、同じ仲間には南米のケーナや、横に構えて吹く篠笛やフルートなどがあります。指孔は、指で直接ふさいだり開けたりして音程を変えて演奏します。指孔をふさぐときには指孔を全部ふさぐ以外にも、半分だけふさいだり、または指孔の上にかざしたりするなど指の使い方で音程や音色を調整します。

尺八の奏法の特徴的なものとして主に「指」、「首」、「息」の3つがあります。

  • 息の奏法としては、音を出す部分(歌口)に吹きかける息によって音色を変えることができます。例えば、素直に吹きかければ澄んだきれいな音をだすことができますし、逆に乱れた気流を歌口に吹きかけると「ムラ息」とよばれる雑味や深みがある音色がでます。このように歌口に吹きかける息によって音色を変えるような奏法も尺八の特徴といえるでしょう。これにより、西洋フルートのような素直な音をだしたり、太く深みのある音をだしたり、または一種のノイズのような、またはエレキギターのディストーションのような荒々しい自然界の音を出したりすることが可能です。
  • 指の奏法としては、指孔を全開、全閉するだけでなく、少し開けたりまたは指孔に指をかざしたりすることで音程や音色を変えることができます。これにより西洋音楽で定義する12音階のみならず、その間を埋める微妙な音程や音色の表現が可能となります。たとえば指孔を少しづつ開閉すれば音程を滑らかに変化させるポルタメント奏法が可能になりますし、開け方を変えることでどのような音程も自由に出すことができます。また、同じ音程でも指孔のふさぎ方を変えることで違う音色を表現します。指孔が5つしかないシンプルな構造ですが、これが音の表現の豊かさを生み出しています。指孔はシンプルなので、孔をたたいたり、早く開閉するなどで色のある音色を出すこともできます。
  • 首の奏法としては、首を横や縦などに動かす方法などが特徴的と言えます。首を横に振ると歌口にあたる息の強さに強弱が付き、結果として音の大きさに強弱がついてビブラートをすることができます。首を縦に動かすと、歌口と息の出る唇の距離が離れたり近づいたりすることによって音程が変化します。横や縦の振り方を組み合わせたり工夫することによってさまざまなニュアンスを出すことが可能となります。尺八の奏法を習得するまでに「首振り3年」などと言われることがあるようですが、首を使った奏法を重要要視しているスタイルや流派もあるようです。
NeuPaddy / Pixabay

尺八の歴史

尺八の歴史については、わかららないことが多く、作り話も多く諸説いろいろあるようですが、以下はShakuhachihackが独自にまとめたものですので参考として頂ければと思います。

現代に伝わる尺八がほぼ完成したのは江戸時代と考えられていますが、尺八と構造の似た楽器が残っています。日本に現存するもっとも古い尺八の仲間「縦型のエアリード楽器」は正倉院に保管されています。これらは奈良時代に中国の唐から宮廷音楽である雅楽の楽器用として持ち込まれたのではないかと考えられています。現代の尺八とは構造が少し異なり、指孔は全部で6つあり径も小さいものです。竹の素材以外にも石や象牙を加工したものなどが保管されていますが美術品としての位置づけもあり、実際に吹奏されたかは定かではありません。この縦のエアリード楽器はその後、雅楽に用いられることはなく普及することはありませんでした。

次に、現代の尺八の仲間が現れたのは室町時代後期(15~16世紀)に流行した「一節切(ひとよぎり)」です。これは、竹の一節部分のみを残して作られることからその名がついたといわれています。指孔の数は5孔で日本の音階に適した作りになったと考えらえます。一節切は、武家や僧侶などを中心に流行したようですが、「一休さん」で知られる一休和尚や水墨画家の雪舟、そして織田信長に仕えた大森宗勲なども一節切の名手だったといわれています。戦国時代の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3武将に引き継がれたと言い伝えられている「乃可勢(のかせ/のかぜ)」と呼ばれる一節切が、長野県諏訪市の寺院貞松院に保存されています。ただし人節切も17世紀、江戸時代に入るとあまり吹奏されることが無くなっていきました。

現代、主に普及している尺八は、江戸時代に入ってから普及したと考えられています。日本に自生する真竹を使い太さは直径3~5cm程度、長さは1尺8寸(約54cm)を基本とし、指孔の数は日本の音階にあわせて5つとなり、それより古い時代の「縦型のエアリード楽器」よりも幅広い音域や様々な音色、大きな音が出るようになりました。江戸時代(17~19世紀中頃)には虚無僧(こむそう、もともとは薦を持ち歩くことから薦僧(こもそう)とよばれた)とよばれる僧が尺八を吹きながら喜捨を請い、諸国を行脚修行したと言われています。この虚無僧は「禅宗の一派普化宗の僧侶である」という説もありますが、そのような宗教が実際に存在したかどうかは定かではなりません。当時の政府である江戸幕府によって尺八の吹奏が虚無僧にのみ許可されたことで一般の者が吹くことが制限されるようになると、純粋な音楽楽器として広く普及することはありませんでした。なぜ吹奏を制限したのかはよくわかっていません。これは、江戸幕府が虚無僧を国中の諜報活動に利用したとする説もありますが、裏付ける決定的な証拠はなく昭和時代の時代劇映画の脚色という説も有力で定かではありません。いづれにせよ、江戸時代には、尺八は音楽楽器というよりもむしろ、宗教や利用する法器、または瞑想のための道具としての性質がありました。とはいえ、尺八を使って音楽を嗜むものはわずかに存在し、18世紀中ごろには黒沢琴古が尺八の楽曲を体系的にまとめ普及しました。この流れをくむ楽曲や演奏スタイルを現代でも琴古流と称します。また、文化文政の頃(19世紀初期)には、箏・三味線と合奏されるようになったという説もあり尺八を題材にした浮世絵なども存在していますが、尺八がどれくらい音楽楽器として使用されたかなどは文献が乏しく実際のところはわかっていません。

尺八が本格的に音楽楽器として使われ始めたのは19世紀中頃で、江戸幕府による政治体制が終わり明治時代入ってからになります。虚無僧が明治新政府により禁止されたことにより、尺八はようやく法器ではなく音楽楽器として積極的に使われ始めました。和楽器の箏や三味線と積極的に合奏するようになったのも明治時代に入ってからです。20世紀に入り、和楽器を継承する家系に生まれた中尾都山が作曲活動を積極的に行いました。それまで独奏が主体だった尺八曲に加え、尺八合奏曲や、和楽器と西洋楽器の合奏曲など、合奏曲を数多く創り出しました。これらの作曲作品は、西洋音楽の楽譜(五線譜)にヒントを得て創作した尺八のための楽譜により、口伝に頼らず誰でも同じ作曲作品を容易に吹けるようになりました。さらには、師弟関係を重視した教育システム(家元制度)を発足し、都山流として組織化することにより、尺八は音楽楽器、合奏楽器として急速に全国へ普及することになりました。現在、日本国内の尺八吹奏愛好家に都山流に属する人が多いのは、中尾都山が生み出した作曲、楽譜、教育システムが効果的に機能したことによるためで、中尾都山は尺八の普及に多大な貢献をしました。

 

尺八のいまとこれから

1970年頃から、山本邦山、村岡実などが古典楽曲のみならず、積極的に様々な音楽ジャンルで尺八を演奏し尺八のあらたな可能性を広げてきました。現代では、江戸時代より伝わる虚無僧音楽や、明治時代に確立した琴古流や都山流の「古典尺八楽曲」などに加えて、ジャズ、フュージョン、ロック、民謡、演歌、アニメソングなどあらゆる音楽楽曲で尺八楽器が普通に使われるようになりました。尺八の豊かな表現力を駆使して、様々な尺八アーティストが、古典的な楽曲はもとより新たな作風やスタイルの音楽を創作しています。その魅力にとりつかれた日本以外の国出身のアーティストも数多く活躍しており、様々な音楽的背景、音楽能力を持つ、世界中の新進気鋭のアーティスト達が尺八を使った魅力あふれる音楽を創作しています。

SHAKUHACHI HACKサイトのARTISTSOUNDSOURCELIVE INFOなどで新進気鋭の尺八アーティストをチェックしてみましょう。

また、尺八という楽器自体も、高度な表現力、演奏技術を持つ様々なアーティストたちに使われるこにより、楽器としての完成度が高まってきました。これまで素材として主に用いられてきた真竹だけではなく、新たな素材を用いることで尺八の良さを継承しつつ尺八の枠を超えた「高性能エアリード楽器」を作る試みも始まっています。サクソフォンに代表されるリード楽器、トランペットなどのリップリード楽器などのように、尺八を基本とするエアリード楽器が近い将来、世界のあらゆる音楽シーンで使われることになることでしょう。

尺八という楽器は、日本で生まれ、日本で育まれ、そしてグローバルを舞台に進化し続けている楽器ということができます。

(SHAKUHACHI HACK事務局まとめ)